ピート・ベストが突然脱退したとき、そのニュースは、すぐに広まった。
 ボブ・ウーラーとエプスタインとの間に、激しい言い合いがあったことも知られている。
 ピート・ベストを辞めさせる際には、一般的に知られている以上の何かがあったらしいのだ。

 ボブ・ウーラーは「真実を書く」とエプスタインに告げたという。
 それが、多くのファンのためにとるべきことなのだと。
 彼とエプスタインは口論し、エプスタインは逃げ出すように去っている。
 だが、その場にいたテッド・ニップス(歌手ビリー・クレーマーのマネジャー)が、とりなしてくれた。
 ニップスは、ピート・ベスト、エプスタイン、そしてビートルズに起きたことは、第三者が口出しすべきではないとウーラーに語り、エプスタインが去った後、彼を説得しているのである。

 ウーラーがどのようなことを書こうとしたのか不明だが、エプスタインとしては、必死にベストの“首切り”を行った。
 それは、はたから見れば、なんとも非情な行いに見えたとしても仕方がなかったのかも知れない…。
 彼は、レコード店経営者から、ロックグループのマネジャーに転身したおそらく初めての人間である。
 その世界での当然の常識に無知であったということも多かった。
 そして、同時にそれが、考えられないほどの成功をビートルズにもたらすことになったかも知れないのだ。
 当時のエプスタインとしては、1つひとつの問題を懸命にクリアーしていくしかなかったということなのだろう。


 リンゴ・スターは、ビートルズにとって申し分のないドラマーであった。
 ジョージ・マーティンは、リンゴが有能なドラマーであることに満足した。
 ジョンとポールのじゃまにならず、しかもユーモラスである彼のセンスは、グループにピッタリだと感じ、彼を選択したビートルズの感覚に、改めて感心するのであった。

 だが、問題は別にあった。
 ピート・ベストをクビにした男、エプスタインは、ファンたちの怨嗟の的となったのである。
 彼は、キャバーン・クラブに近づくことすらできなくなる。
 ボディーガードに守られなければならないほど危険なことになった。

 「ピート・イズ・ベスト」

 「ピートよ永遠に、リンゴなんか要らない」(ピート・フォエバー、リンゴ・ネバー)

 そう記されたプラカードを持ったファンたちが、NEMSの前をねり歩いたのである。
 
 しかし、ピート・ベストを“傷つけた”エプスタインは、もしかしたらそれ以上に“傷ついていた”かも知れなかった。
 彼は、自分が彼にとった態度に自責の念を持ち、罪悪感に悩まされ、心身ともに疲労していた。

 ビートルズがレコーディング契約を済ませた1962年の夏の終り…。
 まだ、リバプールでのライブが行われていた。
 後に行われる演奏会場と比べれば、はるかに小さな規模でのライブが行われていたのである。
 エプスタインは、ファンたちにつかまると小突きまわされたりしている。
 このころは、エプスタインにとっても、次々と起こる問題に立ち向かう困難な時期であった。
 コンサート会場でのケンカは、ビートルズにとっては何ということもなかったが、エプスタインを驚かせ、たじろがせた。
 ケンカがおきても、警察が来ないことが不思議だった。
 いったいどうなっているのか、彼には皆目見当がつかない。
 おそらく、エプスタインは、こうした本格的なケンカを見るのが初めてのことだったに違いない。
 ケンカが起きるたびに、警察を呼んでいては、次のショーが成立しないということもわからなかった。
 演奏会場が「許可」を得るためには、関係方面に申請をするのだが、もし、前回、暴力があったなどということがわかれば、問題が複雑になり、スムースに営業許可がおりなくなる。だから、警察を呼ぶということはあり得ないのだ。
 そういう常識をエプスタインは知らなかった。
 ひたすら彼は、ビートルズが受ける扱いのひどさに憤慨するのだった。

 一方で、ビートルズが、エプスタインに向ける言葉は、相変わらず辛辣だった。
 第三者から見れば、エプスタインがそれに耐えていることが不思議に思えるほどだったのである。
 普通の人間ならば、とても耐えられないような言葉にも、彼は我慢できた。
 なぜなら、彼は誰よりもビートルズを素晴らしいと思い、崇拝すらしていたからだ。
 彼は誰よりもビートルズを愛していた人間だった。
 やがて彼は、ビートルズ流の毒を含んだ、ひねりのきいた言葉のセンスを楽しめるまでになる。
 彼は、一見、どうしようもないただのチンピラにしか見えない若者たちが、実はとてつもなく鋭い感性を持ち、頭の回転も人一倍早く、一目で真実を見抜く洞察力を持っている素晴らしい人間たちだということに気がつくのである。

 当時のエプスタインをクラブのオーナーが語っている。

 「彼はステージ脇で、ビートルズを見つめ、楽しくてたまらないという様子でした。彼は、すべての音、すべての瞬間を逃すまいとしているようでした。彼はいかにも上品で物静かで、まるで俳優のようでした。でも、彼はできることなら自分もビートルズになりたいと思っていたのでしょう。見込みはありませんでしたけどね」

 ブライアン・エプスタインは“5人目のビートルズ”として精力的に活動を続ける。

 

 

SEO [PR] おまとめローン 冷え性対策 坂本龍馬 動画掲示板 レンタルサーバー SEO